地域に開く~そっと見守り、支える場所
グループホーム きんもくせい
2026年春、豊川市に完成した小さなグループホーム「きんもくせい」。
地域で10年にわたりディサービスを営むなかで築いてきた信頼と、長年あたためてきた構想が、作業療法士の視点を活かした認知症ケアの住まいとしてかたちになった。目指したのは、きんもくせいの香りのように主張せず、そっと隣に寄り添う安心感。さりげない優しさと、いつも清々しい心地よさに満ちた空間が生まれている。

「きんもくせい」のようにそっと
「きんもくせいって、姿が見えなくても、ふと香りだけが漂ってきて存在に気づくじゃないですか。そんな寄り添い方を大切にしたいなと思っていて」と話す施設長の山口理恵さん。「介護って『手伝ってあげますよ』ではなくて、『気づいたら後ろにいたのね』ぐらいがちょうどいい。表に出ない黒子のような存在でいたいんです」。「きんもくせい」の名には、そんな願いが込められている。


作業療法士・介護支援専門員として、認知症ケアの現場に長く携わってきた山口さん。過去に大きなけがを負い、長いリハビリを経験したことがある。「身体の回復と同じくらい、傷ついた心に寄り添い、もう一度のその人らしい日々の暮らしを取り戻すサポートが大切だと感じたんです」。それが、心のケアまで含めた暮らし全体を支える作業療法士の道を選んだ原点だ。
豊川市平尾町でデイサービス「きんもくせい」を運営して10年。地域と信頼を築いてきたからこそ、感じてきたことがあった。「自宅での生活が難しくなって他の施設に移ると、積み上げてきた大切なつながりが途切れてしまう。馴染みの関係のまま、ずっと途切れずに寄り添い続けられる場所をつくりたかったんです」。その想いから、グループホームの計画が動き始めた。施設が建つのは、山口さんが古くからつながりを大切にしてきた、お互いの顔が見える小さな町。「隣近所が顔見知りで、お互いに支え合いながら安心して暮らせる土地です。だからこそ、地域に開かれた認知症ケアの場をつくることに、何より意義があると感じています」大切な家族だからこそ、距離を近すぎてすれ違ってしまうことがある。
「入居されることでほどよい距離感が生まれ、お互いを思いやる『心地よい家族のカタチ』を再び取り戻されたご家族もいらっしゃいます」と山口さん。職員も入居さんを「お客様」ではなく、一人の「家族」として迎える。介護を抱え込んできたご家族には、「温かい家族がもう一つ増えた」ような安心感がある。

認知用ケアに大切なのは、家事と趣味といった暮らしの一コマの中で、役割や居場所を感じてもらうこと。だからこの建物には、無理なく自然に身体と心を動かしたくなる、作業療法士の知見を活かした「環境設定」が散りばめられていいる。建物の設計はヒロ建築設計室、施工はイトコーが担当した。白内障の方にも眩しくない北側の柔らかい光を意識した集合スペースは、頭上からトップライトの明るさを取り入れていつも明るい空間に。また施設全体にOMソーラーで室外の新鮮な空気を取り込み、内装材にはFFC(免疫加工)を施したおかげで、施設特有のこもった臭いや圧迫感をほとんで感じさせない清々しい空間だ。

その他、トイレや手すりの色、文字の大きさや位置にいたるまで、認知症の方が認識しやすいよう一つひとつ吟味されている。
心地よい環境をつくるのは、建物だけではない。「共に過ごす私たち職員自身も、入居者さんやご家族にとっての大切な環境の一部だと考えています」。だから、ここでの暮らしはどこまでも家族の延長線上にある。配膳や洗濯たたみ、一緒に料理を作ること。何気ない営みの中で「お茶を運んでくれてありがとう」と言葉が交わされるとき、「自分はここにいていいんだ」という生きがいが灯る。「役割があると感じる時に人は生きていけるんです」
ふと香りを感じて、そこに咲いていたのねと気づく、きんもくせいのように。建物も、人も、主張しすぎず、そっと寄り添い、さりげなく見守っくれる。この場所には、そんな優しさがほのかに漂っている。
ふと香りを感じて、そこに咲いていたのねと気づく、きんもくせいのように。建物も、人も、主張しすぎず、そっと寄り添い、さりげなく見守っくれる。この場所には、そんな優しさがほのかに漂っている。
